2016年6月17日金曜日

所在不明の年金受給者に係る届出制度の問題点

(1)平成26年4月1日から,所在不明の年金受給者に係る届出制度が創設されます。


 改正後は、年金受給者の所在が1カ月以上確認できない場合、

受給者の世帯員は所在不明である旨の届出を行わなければなりません。

届出後、年金事務所において事実確認を行い、所在が確認できない場合は年金の支給が一時差し止められます。

この制度により,年金の不正受給による詐欺罪成立のハードルは低くなるのでしょう,たぶん。




(2)仮に,夫がサラリーマンで,妻が専業主婦だった場合。

夫の老齢年金を毎月の生活費としていたところ,認知症の夫が,行方不明となりました。

年金事務所が夫の老齢年金の支給を差し止めた結果,妻の毎月の生活費が不足することになってしまいました。

生存か死体かを問わず,すぐに夫が発見された場合は良いのですが,何ヵ月(何ヵ年)も発見されなかったら,どうでしょう。

その間,年金は差止められます。

そんなに長く行方不明なら,死亡の蓋然性が高いといえそうですが,

夫の死体が出てこない限り,夫の死亡ということにはならないので,妻は遺族年金を受給できません。

もちろん,銀行預金を相続を原因として払い戻すことはできませんし,夫名義の不動産を売却することもできません。

(方法としては,夫の不在者財産管理人を選任してもらって,妻が婚姻費用の分担の請求をしたり,離婚訴訟をして財産分与の請求をしたりすることになるのでしょうか?)



(3)失踪宣告により死亡とみなされるには,行方不明になってから7年間待つ必要があります。

平成22年2月26日裁決(平成21年(厚)第5号によると,

一時差し止めの場合は,年金の受給権(支分権)の時効は進行し,5年以上経過分は時効により消滅していることになるようです。(条文を読む限り,支給停止と一時差止めは法的効果が違うようです。)

よって,行方不明になって7年の経過を待って失踪宣告を受けた場合,支給を受けることができるのは,最大でも5年分の年金ということになりそうです。
 

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