2016年6月17日金曜日

離婚に関する裁決例


ひとたび離婚すれば,その後も継続して同居していても,引き続く事実婚状態とは扱われず,


年金記録や年金給付としては,離婚時を境にいったん切れることになります。


なぜなら,各種法律には,離婚した場合は失権するなどの規定があるからです。


偽装離婚は,社会的にはされる行為ではありません。ただし,偽装離婚を正当化する客観的な理由があれば,救済されるケースがあるようです。

加給年金については,その性質上もあり,すぐに再婚した場合は救済される可能性が高いようです。


熟年離婚では,離婚後であっても,元配偶者が遺族年金を受給できるケースがあるようです。その場合は,当然ですが,内縁(事実婚)+生計維持関係の要件を満たす必要があります。死亡配偶者にほかにも内縁の配偶者がいた場合は,競合関係に立つことになります。


遺族年金に関して,配偶者の遺言書の記載内容により,遺族年金の受給要件である生計維持関係などの認定判断に影響を与える場合があるようです。


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(1)年金分割に関する裁決例


平成22年5月31日裁決(平成21年(厚)281号) 棄却

請求人と利害関係人Aが,昭和54年に婚姻,平成17年に協議離婚,その3日後に再度婚姻,平成21年に再度離婚した。
請求人は,当初の婚姻からの期間を対象期間とする標準報酬の改定を求めた。

自らの意思で離婚に合意しており,平成17年の離婚がなかったものとして扱うことはできない。
当初の離婚が成立した日は平成19年4月1日以後ではないから,当初の婚姻からの期間を対象期間とすることはできない。




平成23年3月31日裁決(平成22年(厚)343号) 棄却

請求人と利害関係人は昭和58年に婚姻,平成19年6月に離婚,引き続き事実上の夫婦関係を継続し,平成19年7月に再度婚姻,平成21年11月に再度離婚した。
請求人は,改定の対象期間を当初の婚姻からにすべきであると不服を申し立てている。

自らの意思で離婚に合意しており,平成19年6月の離婚をなかったものとすることはできない。平成19年6月の離婚から2年を経過しており,最初の婚姻から平成19年6月までの婚姻期間を改定の対象とすることはできない。


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(2)遺族年金に関する裁決例



平成18年8月31日裁決 裁決集(被用者保険関係)1031頁 棄却

請求人は,平成13年亡夫Aと協議離婚した。この離婚は,Aに生活保護を受けさせるためのものであり,別居したが,Aと婚姻関係と同様の事情にあったと主張して,遺族厚生年金の裁定を請求している。

離婚及び別居によりAに対する夫婦としての生活保持義務を免れ,Aに生活保護を受給させた者に対し,Aが死亡するや,一転してAとの夫婦関係の継続を主張することを許すことは,保険給付に関する法秩序に著しい混乱を招くものであるから,このような主張を認めることはできない。


平成15年5月30日裁決 裁決集502頁 容認

請求人と夫Aは,昭和28年に婚姻した。Aは代表取締役であったが会社が倒産し,金融業者からの過酷な追及が請求人に及ぶのをおそれて,平成13年離婚した。離婚から1週間後にAは自殺した。

48年間の円満な婚姻期間,金融業者からの追及という緊急避難としての離婚と別居したこと,離婚の後も毎日電話で連絡を取っていたことなど,実体上の夫婦関係は離婚の前後を通じて何ら変化していない。Aの死亡当時,請求人は,Aの事実上の配偶者であって,生計を維持した者と認められる。


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(3)加給年金に関する裁決例



平成12年8月31日裁決 裁決集170頁 容認


請求人は,妻の実家の祭祀を承継するために協議離婚の届出をしたうえ,翌日改めて妻の姓を称する婚姻の届出をした。


本件離婚の前後を通じて請求人夫婦30年に及ぶ正常な婚姻関係に実体にいささかの変化もないことから,実質的に婚姻関係は継続しているものとして取り扱うのが相当である。



平成14年8月30日裁決 裁決集209頁 容認


請求人は,勤務先の会社が倒産し,会社の連帯保証人であったため,高利の金融業者を含む債権者から厳しい追及を受けることになった。妻の身に危険が及ぶのを恐れ,平成10年に協議離婚の届出をし,妻の住民票の住所も移転したが,実際は,夫婦として同居生活を続けており,請求人の自己破産を経て,平成11年に再度婚姻の届出をした。


軽率ではあったとしても反社会性は少ないとして,本件は配偶者が離婚したときには該当しないものとして取り扱うのが相当である。



平成15年9月30日裁決 裁決集251頁 棄却


請求人とその妻であったAは,平成13年に離婚届をし,これと前後して住民票上の住所を異にするようになっている。


離婚の届出にもかかわらず事実上の婚姻関係は継続していると主張する者は,これを立証する責任を負うところ,請求人はこれを果たしていないから,請求人が離婚したものと認めて加給年金額の加算を打ち切った原処分は妥当である。



平成20年3月31日裁決 平成19年(厚)414号 容認


請求人と妻Aは,平成19年調停離婚した。請求人夫婦の子Bが中学生の頃から不登校となり,AとBは請求人と別居したが,Bが騒音を発するなどして近隣からの苦情が絶えず,そのためAは精神状態に異常を来すようになった。Aが請求人に離婚を迫ったので,請求人は離婚調停に応じた。

離婚から1ヵ月後,Aは平静を取り戻したので再度婚姻の届出をした。

本件離婚は,一種の緊急避難として取り扱うのが相当であり,これを理由に加給年金の支給をしないこととした原処分は相当ではない。


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