2015年10月25日日曜日

中間及び最終の登記原因に相続が含まれる場合

登記研究811号 平成27年9月号 実務の視点187頁以下によると,


「判決による場合であっても,中間及び最終の登記原因に相続,遺贈,若しくは死因贈与が含まれている場合には,中間省略の登記ができないとされている(昭和39年8月27日付け民事甲第2885号民事局長通達)。


したがって,中間又は最終の登記原因に相続が含まれている中間省略登記については、登記義務者のうち一部の者が調停、残りの者は判決により確定した場合、調停調書及び判決主文に同一の登記原因日付が明示してあっても、当該登記申請は受理できない(登記研究530号質疑応答)。」




ところで,登記研究810号 平成27年8月号 藤原勇喜 登記原因証明情報と不動産登記をめぐる諸問題(4) 98頁以下によると,


「昭和39年の先例は,判決主文に登記原因が明示されていない場合についてのものであるから,判決主文に登記原因が明示されている場合には,中間又は最終の登記原因に相続等が含まれているときでも,その判決による登記申請は受理されると解される。


昭和35年2月3日民事甲第292号法務省民事局長回答は,AからBが買い受けた不動産について,Bの相続人Cから,Aに対して上記売買を登記原因(その日付はその売買の日付)としてCへの所有権移転登記手続を命ずる判決により直接C名義にする所有権移転登記申請は受理して差し支えないとしている。この先例の場合,最終の登記原因に相続が含まれているが,判決主文のとおり登記することができるとしている。


判決主文に登記原因が明示されている場合には,その判決主文のとおり登記せざるを得ないということではないかと考えられる。この場合,任意の申請による場合は,AからBへの売買の登記をした後にBからCへの相続による登記をすべきと考えられる。


なお,BC間の所有権移転が遺贈又は死因贈与である場合も同様に解することができるかどうかについては疑問がある。


前掲昭和39年の先例は,中間及び最終の登記原因に相続等が含まれている場合には,判決による登記申請であっても受理しないとしている。その理由は必ずしもはっきりしないところである。その理由を不動産登記法62条(改正前不動産登記法42条)の趣旨に求める考え方,あるいは相続を証する書面等により判断すべきものとして予定しているものであり,このことに重点を置く考え方がある。いずれも登記官の判断に重点を置く考え方であり,大変意義のある考え方である。」






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*平成29年7月1日追記
登記研究832号 平成29年6月号 藤原勇喜 登記原因証明情報と不動産登記をめぐる諸問題(20)73頁以下では,


前掲昭和39年の先例と登記研究530号質疑応答に言及した上で,102頁には,
「(略),判例の今後の動向等も注目されるところである。改正後の不動産登記法は,旧不登法からの全面改正により物権変動原因(過程と態様)の公示の要請を強めており(不動法61条),そのような状況の中で,最判平成22年12月16日(民集64巻8号2050頁)は,(略),本判決のように登記名義人・中間者の同意の有無を問うことなしに中間省略登記の請求を否定しており,従来の判例の立場を実質的に修正したもの」と評されている(小粥太郎「特約によらない中間省略登記請求権」民法判例百選①総則・物権[第7版]105頁)」


と記載されていました。なお,前掲昭和35年2月3日の先例には言及していませんでした。昭和35年7月12日民甲1580号と同民甲1581号について言及していました。


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以下は,私見である。


上記の藤原勇喜の解説には,登記研究530号質疑応答に対する言及がなかったこと,


登記研究530号質疑応答は,登記原因証明情報の一部が調停調書とされており,全部が判決の事例ではないが,平成4年に出された質疑応答であること,


登記研究平成27年9月号の実務の視点では,判決主文における登記原因の明示の有無に言及することなく,昭和35年2月3日の先例を引用して,「判決による場合であっても,中間及び最終の登記原因に相続,遺贈,若しくは死因贈与が含まれている場合には,中間省略の登記ができないとされている。」と記載していることから,


判決主文に登記原因が明示されていても,中間及び最終の登記原因に相続,遺贈,若しくは死因贈与が含まれている場合には,中間省略の登記ができないと解する。


(登記研究766号=平成23年12月号の実務の視点159頁も参照)
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 昭和35年2月3日 民事甲292
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売主から直接買主の相続人名義にする場合
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〔要旨〕 売買登記未了のまま買主が死亡し、その相続人から売主に対し登記手続の履行を請求した場合において、これを認容した判決主文中、売主(被告)から直接買主の相続人(原告)名義に登記すべき旨が明らかにされているときは、その判決正本により、相続人名義に登記をすることができる(いわゆる中間省略の登記が可能であるとされた事例である)。

(照会) 被相続人乙が昭和24年6月1日甲から買受けた不動産につき、乙の相続人丙から左記主文の判決正本を添付して前記売買を原因として直接自己名義に所有権移転登記申請があった場合、受理して差し支えないものと考えますが、いささか疑義がありますので、何分の御垂示賜りたく、お伺いいたします。


被告(甲)は原告(丙)に対し○○○○の不動産につき、昭和24年6月1日附売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。(昭和34年6月20日東京地方裁判所民事第14部判決)


(回答) 貴見のとおり取り扱ってさしつかえないものと考える。(昭和35年2月3日民事甲第292号・民事局長回答)


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 昭和39年8月27日 民事甲2885
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主文に登記原因の明示がない判決による中間省略登記の可否
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〔要旨〕 判決主文に登記原因の明示がなく、その理由において(1)所有権が甲から乙、乙から丙へといずれも売買により移転したものであること(2)中間登記の省略について乙の合意が成立していること(3)登記原因の日付は乙から丙に移転した日であることが認められる場合で、中間及び最終の登記原因に相続又は遺贈若くは死因贈与が含まれない場合には、当該判決正本を添付し、最終の登記原因及びその日付をもって、甲から直接丙への所有権移転の登記を申請することができる。

(照会) 所有権が数次にわたり移転した場合、いわゆる中間登記を省略して所有権移転の登記ができるのは、判決主文に登記原因が明示されている場合に限ると解されていますが(昭和35年7月12日民事甲第1580号貴職回答)、判決主文には「甲は丙に対し、A不動産につき所有権移転登記手続をせよ」とあり、登記原因の明示がなく、その理由中より、
1 所有権が甲から乙、乙から丙へいずれも売買により移転したものであること。
2 中間登記の省略について乙の合意が成立していること。
3 登記原因の日付は、乙から丙に移転した日であること。
が認められる場合においても、当該判決正本を添付して甲から直接丙に所有権移転登記の申請があったときは、受理してさしつかえないものと考えますが、前記御回答の次第もあり疑義がありますので、何分の御垂示を賜わりたく、お伺いいたします。


(回答) 所問の場合のように中間及び最終の登記原因に相続又は遺贈もしくは死因贈与が含まれない場合において、最終の登記原因及びその日付をもって申請があったときは、受理してさしつかえないものと考える。(昭和39年8月27日民事甲第2885号・民事局長通達)


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判決と調停による中間省略登記の申請(登研530号)
《相続登記手続(総説)》《添付書面(登記原因証書・申請書副本)》
 ○要旨 中間又は最終の登記原因に相続が含まれている中間省略登記については、登記義務者のうち一部の者が調停、残りの者は判決により確定した場合、調停調書及び判決主文に同一の登記原因日付が明示してあっても、当該登記申請は受理できない。


 ▽問 中間又は最終の登記原因に相続が含まれている中間省略登記について、登記義務者のうち一部の者については調停により、残りの者については判決手続により確定した場合、調停調書及び判決主文に同一の登記原因日付が明示されていれば、当該調停調書及び判決正本を登記原因証書として1件で当該登記の申請はできるものと考えますが、いかがでしょうか。
 ◇答 中間又は最終の登記原因に相続が含まれていることから、消極に解します。



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昭和35年7月12日 民事甲1580
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判決による中間省略の登記
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〔要旨〕 主文において甲から乙への所有権移転登記手続を命ずる判決の理由中に、中間取得者Aの存することが明らかであっても、当該判決において登記原因が明示されている限り、Aのための登記を省略して、主文のごとき登記をすることができる。
(照会) 甲は乙のために所有権移転登記手続をなすことを命ずる判決の理由中に、該所有権は甲からA、Aから乙に移転していることが明らかである場合、該判決正本を登記原因を証する書面として、甲から直接乙に対する所有権移転登記申請をすることは、所謂中間省略の登記申請となりますので受理できないものと考えますが、いささか疑義がありますので、何分の御垂示を賜りたく御伺いいたします。

(回答) 判決において登記原因を明示して所有権移転登記手続を命じている場合には、当該判決による登記の申請を受理してさしつかえないものと考える。(昭和35年7月12日民事甲第1580号・民事局長回答)

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昭和35年7月12日 民事甲1581
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数次転売の場合の中間処分登記の省略
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〔要旨〕 甲、乙、丙、丁と順次所有権が移転したにもかかわらず登記名義が甲である場合において、甲は丁に対し登記手続をすべき旨の確定判決を得て、丁から甲を登記義務者とする所有権移転登記の申請があったときは、これを受理すべきである。
(照会) 所有権が甲から乙、乙から丙、丙から丁へと順次売買により移転したが、所有権の登記名義人が甲に存する場合、「甲は丁に対し別紙目録記載の不動産につき昭和何年何月何日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」との確定判決(もっとも、判決の内容において、甲、乙、丙全員が中間登記の省略につき合意が成立していること、原因日付は丙から丁に移転した日であることが認められる。)に基き、丁から登記申請があったとき受理してさしつかえないでしょうか。いささか疑義がありますので、至急何分の御指示をお願いいたします。

(回答) 受理すべきものと考える。(昭和35年7月12日民事甲第1581号・民事局長回答)
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2015年10月8日木曜日

遺産分割協議の引換え給付と相続登記




当事務所では,遺産分割協議の引き換え給付(代償分割:相続分の売買)による相続登記の依頼を承っております。


不動産について相続による名義変更(相続登記)をしたにも関わらず,お金を支払ってもらえないとのトラブルを防止することができます。


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登記研究810号 平成27年8月号 実務の視点 152頁によると,


共同相続人中のある者が,生活に窮した場合に他の者から援助を受け得ることを条件として,相続財産の分譲を受けないもものとして成立した遺産分割の協議は有効であり(昭和31年1月31日付け民事甲第193号民事局長回答),


「長男甲が,次男乙に金500万円を支払ったときは,甲が後記の不動産を相続する。」,


「長男甲は,後記の不動産を相続する。ただし,甲は,相続することの引換えとして乙に金500万円を支払う。」,


旨の記載がある遺産分割協議書に基づいて,相続による所有権の移転の登記の申請をする場合であっても,


反対給付を履行したことを証する情報としての乙の領収書等を提供することを要しない(質疑応答 登記研究602号177頁)。


反対給付(現金の支払い)が履行されていないにもかかわらず,相続登記がされた場合であっても,民法541条に基づき遺産分割協議を債務不履行解除をすることは困難だと思われます(最判平元年2月9日民集43巻2号1頁参照)。


よって,相続登記の抹消を請求することはできません。


第三者である司法書士が関与することで,


反対給付の履行(現金の受領)を確保したうえで,必要書類を添付して法務局に相続登記を申請するという手順を踏むことができますので,


代償分割(相続分の売買)による遺産分割協議に基づき相続登記をする場合は,司法書士に依頼すべきでしょう。




異順位者の共有名義の相続登記の申請



登記研究810号 平成27年8月号 実務の視点148頁によると,


遺産の分割に関する規定は,共同相続人の共有に属する相続財産の分配の方法,効果等を定めたに過ぎないのであって,相続人の決定をすることまで認めたものではない。


したがって,被相続人甲が死亡し,その直系卑属乙及び丙を相続人とする相続(第1次相続)が行われ,次いで,乙が死亡し,その直系卑属A及びBを相続人とする相続(第2次相続)があった場合において,


丙とAとB間で,丙とAが共有名義人となる遺産分割協議を成立させても,丙とAは異順位の共同相続人であって,遺産分割協議によって同順位の相続人とすることはできないので,


「被相続人甲  登記原因 甲の死亡の日の相続」とする所有権の移転の登記は,1件の申請情報で申請することはできない(質疑応答 登記研究466号115頁)。


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