2017年7月31日月曜日

遺留分減殺の登記の抹消

遺留分減殺を原因とする所有権の移転の登記は,後発的な原因による場合は,共同申請はもちろん家庭裁判所の調停調書による場合でも,抹消をすることはできません。

(藤原勇喜 登記原因証明情報と不動産登記をめぐる諸問題(21) 登記研究平成29年7月号(833号) 71頁を参照)

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遺留分減殺請求を原因とする所有権移転登記の抹消の可否(消極)



〔要旨〕 遺留分減殺を原因とする持分一部移転登記を「遺留分減殺請求撤回」、「遺留分減殺請求取消」又は「和解」等の後発的な原因によって抹消することはできない。
(照会) 別紙の事案について、
(1) Dの遺留分減殺を原因とする持分一部移転登記(事案の②、③、④の登記)について、②の登記はADの共同申請により、③の登記はBDの共同申請により、④の登記はCDの共同申請により、それぞれ抹消の申請をすることができるか。
また、共同申請ではなく、家庭裁判所の調停調書を用いて各登記の抹消の申請をすることができるか。
(2) (1)の申請ができる場合には、Dの遺留分減殺を原因とする持分一部移転登記が判決に基づいてされていたときも、同様に、共同申請又は調停調書によって抹消の申請をすることができるか。
(3) (1)、(2)の抹消の申請ができる場合、その登記原因は、「平成〇年〇月〇日遺留分減殺請求撤回(又は取消)」又は「平成〇年〇月〇日和解(又は調停)」で差し支えないか。


別紙
(事案)
被相続人甲の相続につき、相続人は、甲の子A、B、C、Gおよび甲の孫D、E、Fの合計7名である。(ABCGの相続分各5分の1、DEFの相続分各15分の1、DEFの遺留分各30分の1)
 

甲の遺産である不動産(甲単独所有名義)につき、甲の遺言を原因証書として、A、B、C3名の持分各3分の1とする次のような相続登記がなされた。

その後、相続人DがABCに対し遺留分減殺の請求をし、同一の不動産につき、「遺留分減殺」を登記原因とする、次のようなABCの各持分一部移転登記がなされた。E、F、Gについては遺留分減殺によるこのような登記はなされていない。



(回答) 客年11月22日付け11―2705号をもって照会のあった標記の件については、下記のとおりと考えます。
1 照会事項(1)について
いずれの抹消登記手続もできないと考えます。
2 照会事項(2)及び(3)について
(1)により了知されたい。(平成12年3月10日民三第708号・民事局第三課長回答)

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2017年7月14日金曜日

土地所有権の放棄の裁判例

 当該裁判例の訟務月報の解説には,次の記載があります。

「不動産の所有権放棄について争われた裁判例は少なく,不動産の所有権放棄の可否について正面から判断した裁判例は見当たらないが,」 

「本件では,不動産の所有権放棄の可否そのものは争点とされていなかったため,本判決はこの点に触れていない。もっとも,本判決は,後記のとおり,本件所有権放棄の権利濫用該当性について検討していることからすれば,その前提として,不動産の所有権放棄自体はできるとの見解に立ったものとも思われる。」

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理論上は,その前提として,不動産の所有権放棄自体はできるとの見解を採用せざるをえないのでしょうが,国策として,権利濫用又は公序良俗違反を理由に,原告の請求は棄却されることになるはずです。


最近の土地所有権放棄の裁判例として参考になります。

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法務省 訟務重要判例集データベースシステム

訟務月報62巻10号

http://www.shoumudatabase.moj.go.jp/search/html/upfile/geppou/pdfs/d06210/m06210012.pdf




土地所有権移転登記手続請求事件
(松江地裁 平成26年(ワ)第151号 平成28年5月23日判決)
(原  告)X
(被  告)国
本件は控訴中(広島高裁松江支部平成28年(ネ)第51号)
     
 受贈者は,父の所有する土地を将来において相続し保有し続ける事態を避けるため,当該土地の受贈後に所有権を直ちに放棄する目的であえて父から当該土地の生前贈与を受けたものであること,受贈者において,当該所有権放棄により当該土地に関する負担ないし責任が受贈者から国に移転することを認識していたこと,当該所有権放棄により当該土地の所有権が帰属することとなる国において,財産的価値の乏しい土地の管理に係る多額の経済的負担を余儀なくされることなどの事情の下においては,土地の生前贈与の受贈者による当該土地の所有権を受贈後直ちに放棄する旨の意思表示は,権利の濫用に当たり無効であるとされた事例


* 請求の趣旨「被告は,原告に対し,別紙物件目録〈略〉記載の各土地について,平成26
年10月23日放棄を原因とする原告から被告への所有権移転登記手続をせよ。」


*本件土地1の固定資産税評価額は47万3083円,本件土地2の固定資産税評価額は6763円である。そして,①本件各土地はいずれも山林であって,その所在地が特段付加価値の高い地域ではないこと,②本件各土地は地上に樹木が生い茂った状態であり,本件各土地を利用するためには地上にある樹木を伐採し土地を整備する必要があり,相当の負担が必要となることに照らせば,本件各土地の転売可能性は相当低いものと認められ,以上を踏まえると,本件各土地の現実の財産的価値は固定資産税評価額を超えるものではないと認めるのが相当である。


*本件各土地が国の所有となれば,国はその管理費用として,少なくとも,境界確定費用(測量費用を含む。)として52万0676円をかなり上回る費用,単管柵の設置費用として100万7328円を負担することとなるほか,毎年かかるものとして,巡回警備費用1万3280円,草刈り費用6万5240円,枝打ち費用(1本899円)を負担することになるものと認められる。


*なお,本件各土地の管理に要する費用について,本判決は,Xらが本件各土地の管理をせず,その費用を支出していないことを挙げて,その費用の必要性がない旨のXの主張を排斥しており,所有者が長年不動産の管理をしていないとしても,そのことから当該不動産の管理の必要性が否定されるものではないことを示すものといえよう。


*,原告による本件所有権放棄が認められれば,本件各土地は,民法232条2項により必然的に国庫に帰属することとなるのであって,被告は,本件各土地の取得について何らの行為をなすことなく,いわば原告の意思表示により一方的かつ必然的に,本件各土地の所有に伴い生じる負担を余儀なくされる関係にあるのであるから,被告が本件各土地を取得することに伴い被告に生じる負担を,原告の所有権放棄の意思表示と切り離して評価する理由はなく,原告の主張は採用できない。


*また,原告は,共有持分の放棄(民法255条)や相続放棄(民法959条)の場合には,権利濫用等が問題とされないことに照らせば,原告による本件所有権放棄に対して権利濫用等の主張をすること自体が権利の濫用であると主張している。 しかし,共有持分の放棄の場合でも,法解釈上,権利濫用等の主張が一切認められないとする理由はないし,また,相続放棄は,相続人の意思にかかわらない被相続人の死亡により生じる相続財産について,相続人がこれを包括的に放棄するか否かを選択する制度であって,個別的な財産の所有権の放棄を問題とする本件とは根本的に異なることが明らかであり,いずれも理由とならない。


*以上によれば,原告による本件所有権放棄は権利濫用に当たり無効であり,被告は本件各土地の所有権を取得していないから,原告の請求は理由ない。


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2017年7月1日土曜日

株主リスト(登記研究)



登記研究平成29年6月号(832号)の1頁以下に


「株主リストに関する一考察」のタイトルで


法務省民事局付
辻 雄介
法務省民事局商事課係長
(商業法人登記第一係担当) 
大西 勇


の両氏による解説が記載されています。


改正省令の施行後,各法務局及び地方法務局等から,当課に対して,商業登記規則第61条第2項又は第3項に規定する株主リストの添付の要否,記載内容及びその作成者等について,多数の照会が寄せられ,当課において,それらの内容を検討してきたところである。


そこで,本稿では,そのうち,商業・法人登記実務に特に有益と考えられる株主リストの添付の要否,記載内容及び作成者に関する問題をいくつか取り上げ,解説を加えることとする。




第2 株主リストの添付の要否に関するもの


総論


持分会社への組織変更


取締役会を置かない会社における株主総会で選定した代表取締役の辞任


募集株式の発行における株主総会の委任に基づく取締役会による募集事項の決定


発行済みのある株式の一部を他の種類の株式にする場合


失権予告付催告の期間を短縮する場合における綜株主の同意


会計監査人の自動再任


会計監査人を再任しない旨の決議


特例有限会社における監査役を置く旨の定款の定めの廃止による監査役の退任の登記


取締役の一部につき種類株主総会で選解任できる場合における当該取締役の解任


取得請求権付株式の取得と引換えにする新株予約権の発行


募集新株予約権の発行に当たり,資本金として計上しない額を定めていた場合


第3 株主リストの記載内容に関するもの


主要な株主が死亡した場合の株主リスト


第4 株主リストの作成者に関するもの


組織再編の場合における株主リスト


第5 株主リストの書式例に関するもの


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