2016年5月31日火曜日

相続放棄の無効を認定した裁決事例



請求人は,相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ってから,3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなかったこと,


相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時点において、被相続人に相続すべき積極及び消極の財産として別表2の不動産があることを了知していたと認めることができること,


そもそも,相続開始後、上記(1)のホのとおり、別表2の不動産について、所有権移転登記を経由した上、同年6月29日にこれをJセンターの役員であるKに売り渡す旨の売買契約を締結していることが認められるから、民法第921条第1号の相続財産の全部又は一部を処分したときに該当し、同条の規定により請求人は単純承認したものとみなされること,


を理由として,


国税不服審判所は,請求人の相続放棄は無効であるから,


相続による納付義務の承継があったことを前提として行われた本件差押処分本件差押処分は有効であると判断しました。




*不動産の所有権の移転の登記は,不動産登記簿の記載により明らかになりますので,


税務署に対して,相続開始後の所有権の移転の登記を隠すことはできません。


遺産分割協議に参加し,権利を取得(相続)することは,法定単純承認事由に該当すると解されています。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


平10.2.19裁決、裁決事例集No.55 1頁


請求人に相続による納付義務の承継があったことを前提として行われた本件差押処分について、請求人が相続放棄をしているから違法である旨の主張が認められなかった事例


国税不服審判所HP
http://www.kfs.go.jp/service/JP/55/01/index.html



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/

遺留分減殺請求権の競合



登記研究平成28年5月号(819号)の実務の視点の,


130頁の23行目から28行目の下記記載には説明不足があるような気がします。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
「なお,上記の事例において,戊(遺言者)から丁(第三者)への包括遺贈が,甲(相続人)の遺留分を侵害しているのであれば,乙(相続人)及び丙(相続人)の遺留分をも侵害していると考えられるが,


上記のとおり,甲は遺留分減殺請求によって取り戻した当該土地の所有権を物権的に取得し,当該土地の所有権は,甲が確定的に取得しているのであるから,


乙及び丙が,甲に遅れて遺留分減殺請求権を行使しても,甲が取り戻した当該土地に対して,遺留分減殺請求をすることはできないと解される。」


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
「甲が確定的に取得している」との部分ですが,


上記の事例からの引用が不明確なため,


甲(遺留分権利者)の丁(遺留分侵害者=包括受遺者)に対する,遺留分減殺請求訴訟の勝訴判決確定(甲が当該土地の所有権全部を取得した判決内容。)のみを指すのか,


当該勝訴判決に基づく登記を具備(完了)したことまでも指すのか,


理解しにくい内容となっています。


何度読み直しても,登記を具備したことまでを指しているものとは,解せませんでした。


登記手続に関する記載はありますが,登記の完了(登記の具備)の記載は読み取れませんでした。


遺留分権利者は,減殺請求後に目的物を買受け所有権移転登記を経た転得者に,その所有権取得をもって対抗しえない(最判昭35年7月19日民集14巻9号1779頁)。」


全部包括遺贈に対して,遺留分減殺請求権を行使した後は,遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される(最判平8年1月26日民集50巻1号132頁)。」


上記判例からすると,共同相続人である遺留分権利者が2名いた場合で,ある遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使し,その後に他の遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使したときは,


それぞれの関係は,包括承継人である相続人同士(当事者同士)の関係ではなく,互いに相争う民法177条の対抗関係にたち,


遺留分減殺請求権の行使の先後ではなく,その対抗要件たる登記の先後によって,決せられると解されます。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/









遺留分の承継者




登記研究平成28年5月号(819号)の実務の視点の


126頁以下によると,


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
遺留分減殺請求権は,個人的,一般的な財産権として譲渡することが可能。


遺留分減殺請求権の承継人には,特定承継人も含まれること。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


平成28年1月に父Aが死亡し,


平成28年2月に母B(Aの配偶者)も死亡した。


AとBの共同相続人は,その子である甲,乙,丙の3名。


平成28年3月に丙から,「父Aの全財産を丙に遺贈する。」旨の遺言書が明らかにされ,


平成28年4月に丙が遺贈による所有権の移転の登記をした。


平成28年5月に甲が丙に対して,遺留分減殺の請求をした。


*母Bは,配偶者である父Aの相続財産に関する遺留分の放棄をしていなかったこととする。




甲は,父Aの子としての固有の遺留分(2分の1×2分の1×3分の1=12分の1)を有するとともに,


甲は,母Bが父Aの配偶者として有する遺留分(2分の1×2分の1=4分の1)について,母Bの子として,


つまり,母の遺留分の承継人としても,遺留分(4分の1×3分の1=12分の1)を有することとなる。


よって,甲が有する父Aの相続財産に関する遺留分は,固有の遺留分(12分の1)と承継人の遺留分(12分の1)の合計である6分の1となる。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/

遺言書の記載を補完する書面の作成者




登記研究平成28年5月号(819号)の実務の視点,


110頁以下によりますと,


遺言書の記載を補完する書面(例えば,不動産の表示がない場合)の作成者についてですが,


受遺者の作成については,当該遺言による利益を受ける者であり自己証明となること,


遺言執行者の作成については,代理権限について自己証明となることから,


受遺者も遺言執行者も補完する書面の作成者としては,不適格となります。


その他の利害関係者の作成については,利害関係及びその証明権限を有する者であるか否か等について,登記官の形式的審査の権限を超え審査できないため,不適格となります。


よって,遺言書の内容を補完する書面の作成は,


遺言執行者は相続人の代理人とされており,相続人が本人たる地位にたつこと,


当該遺言書により不利益を受けるのは遺言者の相続人であることから,


遺言者の共同相続人全員による作成に限られるようです。


遺言者の相続人のうちで書面の作成を拒む者がいる場合は,最終的には裁判にて解決することになります。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/

平成28年3月11日付け法務省民二第219号の解説



登記研究平成28年5月号(819号)の137頁に,


「除籍等が滅失等している場合の相続登記について」


とのタイトルで,


平成28年3月11日付け法務省民二第219号法務局長,地方法務局長宛て法務省民事局長通達


の解説が記載されています。


昭和44年3月3日付け民事甲第373号民事局長回答


昭和55年2月14日付け法務省民三第867号民事局第三課長回答


平成11年6月22日付け法務省民三第1259号民事局第三課長回答


昭和30年4月15日付け民事甲第707号民事局長回答


の各先例に言及しています。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/

2016年5月30日月曜日

表題部に外何名と記載されていた場合の判例




当該最高裁判決は,民集登載判例ではないので,最高裁判所判例解説民事編の解説がありません。よって,訟務月報の解説が役に立つと思われます。


登記官が不動産登記簿の表題部に所有者を記載する行為と抗告訴訟の対象が,争点とされていますが,


土地台帳に「外何名」と記載されていたため、そのまま不動産登記簿の表題部所有者欄にこれが移記された場合の,


当該土地の所有権保存登記の申請方法が,本件訴訟の目的だったようです。




当該最高裁判決には,


「所有権の帰属と登記の記載の食い違いを正すためには、本来、実体権の帰属が争いとなる当事者間における民事訴訟によるべきものであることを、ここに付言しておきたい。」


との園部逸夫裁判官の補足意見があります。


民事月報にも,


「本判決において園部判事の補足意見にあるように、当事者である共有者間における所有権確認訴訟において、その解決が図られるべきであり、登記の実務においても、当該判決を添付して申請することとされている。」


との解説があります。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


土地所有権保存登記申請却下決定取消等、訴えの追加的併合上告事件


最高裁第三小法廷平成六年(行ツ)第一九七号  平成9年03月11日 判決


集民 第182号137頁
最高裁判所HP
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=63048




訟務月報 48 巻 9 号
法務省 HP 訟務重要判例集データベースシステム
http://www.shoumudatabase.moj.go.jp/search/html/upfile/geppou/pdfs/d04410/g04410027.pdf


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/


遺言書の相続登記の却下処分に関する裁判例




却下された前登記申請(相続登記)の遺言書(平成10年12月22日付け)と,


前登記申請から10日後の本件登記申請(相続登記)の遺言書(昭和58年5月23日付け)は,


その記載内容において抵触している部分があった。


本件登記申請の遺言書の日付が,却下された前登記申請の遺言書の日付よりも古かったため,


登記官が,前登記申請の遺言書により,本件登記申請の遺言書の記載内容のうち抵触している部分について撤回があったのではないかと疑義が生じ,


本件遺言書を本件登記申請の相続を証する書面と認めることができないと判断し,法49条8号により却下した事案で,


東京高等裁判所は,却下処分の取り消し請求を否定した。




(旧)不動産登記法 
第49条 登記官ハ左ノ場合ニ限リ理由ヲ附シタル決定ヲ以テ申請ヲ却下スルコトヲ要ス 但申請ノ欠缺カ補正スルコトヲ得ヘキモノナル場合ニ於テ申請人カ即日ニ之ヲ補正シタルトキハ此限ニ在ラス
八 申請書ニ必要ナル書面又ハ図面ヲ添附セサルトキ


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


相続登記却下処分取消請求控訴事件


東京高裁平成12年(行コ)第302号  平成13年03月01日 判決(確定)


 判 決 要 旨


 権利に関する登記申請について,登記官が審査に用いることができる資料は,原則として,申請書,その添付書類及び登記簿に限定されると解されるが,ある登記申請に対する却下決定がされた後に,同一不動産について,同一登記原因に基づき,同一申請人,同一の代理人から登記申請が再度され,同一登記官がこれを審査したような場合,登記官が前登記申請についての職務を遂行するについて,添付書面上当然知ることができ,確実に把握している事柄については,登記官の職務上知り得た事実として,登記申請の審査に当たって斟酌しても差し支えない。


法務省HP 訟務重要判例集データベースシステム
http://www.shoumudatabase.moj.go.jp/search/html/upfile/geppou/pdfs/d04809/g04809017.pdf


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/





2016年5月19日木曜日

不動産登記におけるDV被害者の住所の特例的取り扱いについて



登記研究平成28年4月号(818号)の9頁以下に


内閣法制局第二部参事官付(前法務省民事局民事第二課係長)


太田 道寛(氏)による


平成27年3月31日付け法務省民二第196号法務省民事局民事第二課長通知


平成27年3月31日付け法務省民二第198号法務省民事局民事第二課長通知


の解説があります。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/



2016年5月17日火曜日

遺贈の登記申請者




登記研究平成28年4月号(818号)の実務の視点の136頁によりますと,


「したがって,遺言執行者が指定されている場合は,同人を登記義務者として,受遺者との共同申請によるべきであり,遺言執行者の指定のある遺言書を登記原因証明情報の一部として提供する遺贈による所有権の移転の登記の登記義務者を,相続人とすることはできない。」


よって,当該遺言執行者が何らかの理由で登記申請人(登記義務者)になることができず,別人が登記申請人になる場合は,その理由を証する書面を添付する必要があるでしょう。




なお,実務の視点の121頁22行目から122頁1行目までの下記部分ですが,引用判例を間違っているようです。


「一方,特定遺贈とは,特定の具体的な財産を目的としてする遺贈であり,遺贈の目的物の種類により,特定物の遺贈,不特定物の遺贈及び限定種類物の遺贈に分かれ,その目的物が金銭その他の不特定物の場合には,受遺者は,遺贈された権利の移転を遺贈義務者に請求することができる権利を取得するに過ぎない(債権的効力)と解され,特定物又は特定債権を目的とする場合には,遺言の効力発生と同時に遺贈された権利が,当然に受遺者に移転する(物権的効力)と解されている(昭和30年5月10日最高裁判所第三小法廷判決・民集第9巻6号657頁)」




引用の昭和30年5月10日最高裁判所第三小法廷判決・民集第9巻6号657頁は,最高裁判所のHPによりますと,下記のとおり,特定遺贈の物権的効力について,特に言及をしているわけではありません。

判示事項
一 民法第八九五条と遺贈の目的物についての受遺者の仮処分申請の許否
二 民法第一〇一二条と遺贈の目的物についての受遺者の仮処分申請の許否
三 民法第九七六条による遺言と医師の立会等の要否


裁判要旨
一 民法第八九五条の規定は、受遺者が、相続人廃除の手続進行中、相続人から遺贈の目的物を譲り受けた第三者に対し、右目的物につき仮処分を申請することを妨げるものではない。
二 民法第一〇一二条の規定は、受遺者が自ら遺贈の目的物につき仮処分を申請することを妨げるものではない。
三 禁治産者でない通常人が民法第九七六条による遺言をなす場合には、医師二人以上の立会その他同法第九七三条所定の方式を必要とするものではない。



最高裁判所HP
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57468




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/



2016年5月2日月曜日

平成28年熊本地震の相続放棄等の熟慮期間



平成28年熊本地震の発生時(平成28年4月14日)に熊本県に住所を有していた相続人については,相続放棄等の熟慮期間が政令により延長されています。


熟慮期間は,通常は3ヵ月以内とされていますが,平成28年12月28日まで延長されています。


なお,平成28年12月28日までであっても,法定単純承認とみなされる行為をした場合は,当然ながら,相続放棄等はできなくなります。


なお,対象者は,熊本県内の相続人に限られます。つまり,被相続人(死亡者)が熊本県内であっても対象外です。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


法務省HP
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00186.html

平成28年熊本地震の発生時(平成28年4月14日)に熊本県に住所を有していた相続人の方々へ ~政令により延長された相続放棄等の熟慮期間は,平成28年12月28日までです。~

 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律に基づき,平成28年熊本地震を同法第2条第1項の特定非常災害に指定するとともに,平成28年熊本地震の発生日である平成28年4月14日において熊本県に住所を有していた相続人について,熟慮期間(相続の承認又は放棄をすべき期間)を平成28年12月28日まで延長すること等を内容とする「平成28年熊本地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」(以下「政令」といいます。)が平成28年5月2日に公布,施行されました。政令の詳細については,こちら(内閣府のサイトへリンクしています。)を御覧下さい。
 以下では,政令のうち,相続放棄等の熟慮期間の特例に関する措置(以下「本特例」といいます。)について御説明します。
 なお,政令で延長された熟慮期間は,平成28年12月28日で満了しますので,御注意下さい

Q4  本特例は,亡くなった方(被相続人)が被災者である場合や,相続の対象となる財産が熊本県にある場合にも,適用されますか。
A  
 本特例が適用されるためには,相続人が平成28年4月14日(平成28年熊本地震の発生日)に熊本県に住所を有していたことが必要です。被相続人が被災者であるか否か,相続の対象となる財産が熊本県にあるか否かは,関係がありません。 
 したがって,相続の対象となる財産が熊本県以外にある場合であっても,相続人が平成28年4月14日に熊本県に住所を有していれば,本特例が適用されます。 

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP 
http://ishihara-shihou-gyosei.com/