2017年7月14日金曜日

土地所有権の放棄の裁判例

 当該裁判例の訟務月報の解説には,次の記載があります。

「不動産の所有権放棄について争われた裁判例は少なく,不動産の所有権放棄の可否について正面から判断した裁判例は見当たらないが,」 

「本件では,不動産の所有権放棄の可否そのものは争点とされていなかったため,本判決はこの点に触れていない。もっとも,本判決は,後記のとおり,本件所有権放棄の権利濫用該当性について検討していることからすれば,その前提として,不動産の所有権放棄自体はできるとの見解に立ったものとも思われる。」

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理論上は,その前提として,不動産の所有権放棄自体はできるとの見解を採用せざるをえないのでしょうが,国策として,権利濫用又は公序良俗違反を理由に,原告の請求は棄却されることになるはずです。


最近の土地所有権放棄の裁判例として参考になります。

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法務省 訟務重要判例集データベースシステム

訟務月報62巻10号

http://www.shoumudatabase.moj.go.jp/search/html/upfile/geppou/pdfs/d06210/m06210012.pdf




土地所有権移転登記手続請求事件
(松江地裁 平成26年(ワ)第151号 平成28年5月23日判決)
(原  告)X
(被  告)国
本件は控訴中(広島高裁松江支部平成28年(ネ)第51号)
     
 受贈者は,父の所有する土地を将来において相続し保有し続ける事態を避けるため,当該土地の受贈後に所有権を直ちに放棄する目的であえて父から当該土地の生前贈与を受けたものであること,受贈者において,当該所有権放棄により当該土地に関する負担ないし責任が受贈者から国に移転することを認識していたこと,当該所有権放棄により当該土地の所有権が帰属することとなる国において,財産的価値の乏しい土地の管理に係る多額の経済的負担を余儀なくされることなどの事情の下においては,土地の生前贈与の受贈者による当該土地の所有権を受贈後直ちに放棄する旨の意思表示は,権利の濫用に当たり無効であるとされた事例


* 請求の趣旨「被告は,原告に対し,別紙物件目録〈略〉記載の各土地について,平成26
年10月23日放棄を原因とする原告から被告への所有権移転登記手続をせよ。」


*本件土地1の固定資産税評価額は47万3083円,本件土地2の固定資産税評価額は6763円である。そして,①本件各土地はいずれも山林であって,その所在地が特段付加価値の高い地域ではないこと,②本件各土地は地上に樹木が生い茂った状態であり,本件各土地を利用するためには地上にある樹木を伐採し土地を整備する必要があり,相当の負担が必要となることに照らせば,本件各土地の転売可能性は相当低いものと認められ,以上を踏まえると,本件各土地の現実の財産的価値は固定資産税評価額を超えるものではないと認めるのが相当である。


*本件各土地が国の所有となれば,国はその管理費用として,少なくとも,境界確定費用(測量費用を含む。)として52万0676円をかなり上回る費用,単管柵の設置費用として100万7328円を負担することとなるほか,毎年かかるものとして,巡回警備費用1万3280円,草刈り費用6万5240円,枝打ち費用(1本899円)を負担することになるものと認められる。


*なお,本件各土地の管理に要する費用について,本判決は,Xらが本件各土地の管理をせず,その費用を支出していないことを挙げて,その費用の必要性がない旨のXの主張を排斥しており,所有者が長年不動産の管理をしていないとしても,そのことから当該不動産の管理の必要性が否定されるものではないことを示すものといえよう。


*,原告による本件所有権放棄が認められれば,本件各土地は,民法232条2項により必然的に国庫に帰属することとなるのであって,被告は,本件各土地の取得について何らの行為をなすことなく,いわば原告の意思表示により一方的かつ必然的に,本件各土地の所有に伴い生じる負担を余儀なくされる関係にあるのであるから,被告が本件各土地を取得することに伴い被告に生じる負担を,原告の所有権放棄の意思表示と切り離して評価する理由はなく,原告の主張は採用できない。


*また,原告は,共有持分の放棄(民法255条)や相続放棄(民法959条)の場合には,権利濫用等が問題とされないことに照らせば,原告による本件所有権放棄に対して権利濫用等の主張をすること自体が権利の濫用であると主張している。 しかし,共有持分の放棄の場合でも,法解釈上,権利濫用等の主張が一切認められないとする理由はないし,また,相続放棄は,相続人の意思にかかわらない被相続人の死亡により生じる相続財産について,相続人がこれを包括的に放棄するか否かを選択する制度であって,個別的な財産の所有権の放棄を問題とする本件とは根本的に異なることが明らかであり,いずれも理由とならない。


*以上によれば,原告による本件所有権放棄は権利濫用に当たり無効であり,被告は本件各土地の所有権を取得していないから,原告の請求は理由ない。


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