2017年6月5日月曜日

数次相続と全部相続させる遺言2

登記研究831号(平成29年5月号)の163頁のカウンター相談249によりますと,


「土地の所有権の登記名義人甲が平成26年に死亡し,乙と丙が相続したが,相続登記が未了のうちに丙が平成27年に死亡し,その法定相続人はAとBである場合において,

①丙名義の「全ての相続財産をAに相続させる」旨の公正証書による遺言書
及び
②乙が土地を取得する旨に加えて,Bによる遺留分減殺請求権の行使がない旨の記載(又は上申書)がある乙名義とA名義の遺産分割協議書

を添付して,甲から乙への相続による所有権の移転の登記が申請されたときは,これを実行して差し支えない。

遺産分割協議「前」にBによる遺留分減殺請求権の行使がされていたときは,乙,A及びBが遺産分割の協議を行う必要がある。」



遺留分権利者たるBが減殺請求権を行使したときに,Bに帰属する権利が遺産性を帯びるのかどうかが問題となります。


最高裁判例はなく,学説も乏しく,文献もないので,他の判例を参考にして,考えることになります。


全部包括遺贈の最二判平8年1月26日民集50巻1号132頁,割合的な相続分の指定の最一決平24年1月26日判タ1369号124頁の以上を踏まえて,Bによる遺留分減殺請求の結果,Bに帰属する本件遺産についての権利も遺産性を帯びるとして,Bも遺産分割の当事者となるとする見解が相当と思われます。


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①全部相続させる旨の遺言(包括的全部相続させる旨の遺言も含む)に対して,遺留分減殺請求権が行使された場合は,物権共有になると解されています。その分割は,共有物分割手続により行うことになります。


②相続分の指定及び割合的相続させる旨の遺言に対して,遺留分減殺請求権が行使された場合は,遺産共有になると解されています。その分割は,遺産分割手続により行うことになります。


本件事案について,丙名義の「全ての相続財産をAに相続させる」旨の遺言により,丙の相続財産のうち,丙固有の遺産については,確定的にAに帰属していることから,遺産性が失われていることになります。遺留分減殺請求後の分割は,共有物分割手続により行うことになります。


しかし,丙が相続した被相続人甲の遺産については,遺産分割協議が未了の状態の法定相続分という共有持分であるため遺産性を帯びており,Aが遺言により全部相続した後であっても,乙とAの遺産分割協議前にBが遺留分減殺請求権を行使した場合は,Bには遺産性を帯びた権利が帰属するため,遺留分減殺請求後の分割は遺産分割手続により行うことになります。


なお,登記研究831号(平成29年5月号)の163頁のカウンター相談249は,法定相続人の一部を除く相続分の指定の事例で,遺留分権利者が存在する場合は遺産分割協議に参加しなければならない(又は遺留分放棄書を添付)という「カウンター相談Ⅱの141頁」について,まったく言及をしていません。




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札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
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