2014年2月7日金曜日

遺産分割協議の解除および再分割協議



①遺産分割協議は,相続人の一人が他の相続人に対して,遺産分割協議における債務の負担を履行しなかったことを原因として,民法541条に基づき解除をすることはできません(最判平元年2月9日民集43巻2号1頁)。

(最判平元年は,共同相続人である被相続人の妻(子の母)と子の計6名が,遺産分割協議の合意の条件として,子の1人である被告が,(1)兄弟は仲良くすること,(2)母と同居すること,(3)母を扶養すること,(4)祖先の祭祀を承継し,祭事をすること,以上の4つの遵守事項を合意していたが,被告が遵守しなかったとして遺産分割協議の解除が請求され,否定された事案です。)


②遺産分割協議は,相続人全員の合意があれば,合意解除および再分割協議をすることができます(最判平2年9月27日民集44巻6号995頁)。


③遺産分割協議に解除条件を付けたり,約定解約権を留保したりすれば,解除条件の成就や約定解約権の行使により,遺産分割協議を解除することができるとの有力説があるようです。


④最判平成2年は合意解除の有効性を認めていますが,

当該事案につき,合意解除後の再分割協議案を具体的に有していた点を重視しているとの見解(合意解除の場合は,単に解除して白紙に戻すだけでなく,同時に解除後の再分割協議が成立しているのが前提となっているはず。)によると,

最判平2年により,ただちに解除条件や約定解約権を原因とする解除が認められることにはならないようです。

最判平元年は,遺産分割協議はその性質上協議の成立とともに終了すること,法的安定性を重視していることを説示しており,

私見としては,法的安定性を害するので,解除条件を付したり,約定解約権を留保することで,遺産分割協議を解除することは難しいのではないかと思います。

ただし,共同相続人がAとBの2人しかいないような場合で,

AがBに対して,遺産分割協議において債務を負担したが,Aがその債務の負担を履行しない場合は,Bの民法543条に基づく解除を認める余地はあると思います。

第三者に対する法的安定性は,民法545条1項ただし書,909条ただし書,192条などにより手当がなされているので,相続人間の法的安定性への配慮が特に問題となりますが,

2人しかいない場合は,相続人間の法的安定性への配慮が不要になるからです。債務の負担を履行しない不誠実な相続人を保護するは必要ありません。

また,一種の負担付贈与と解することで,解除を認める構成も可能かも知れません。

なお,大判昭3年3月10日新聞2847号15頁は,更改契約において,新債務の不履行を理由として解除をすることができるとしています。



④税務ですが,合意解除の場合は税法上は再分割となり,贈与税などの課税問題が生じます。

原則論としては,いったん各相続人に帰属した財産を,贈与や交換などの原因で譲渡したとみなされて,贈与税やその他の課税問題が生じることになります。

相続税の配偶者税額軽減に関する相続税法基本通達19の2-8は,


「当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、遺産分割に取得したものとはならないのであるから留意する。」

と規定し,再分割による取得を相続とは解していません。



⑤なお,不動産取得税について,合意解除による再分割協議に関して,最判昭62年1月22日判例時報1227号34頁があります。

国税不服審判所 平9.3.28裁決、裁決事例集No.53 317頁の記載によりますと,最判昭和62年は,

「不動産取得税の課税に当たって、不動産が遺産分割協議により分割され、登記された後、当該遺産分割協議を相続人全員の合意によって解除され,再分割協議が行われ、これに基づいて不動産の所有権移転登記が行われた場合においても、再分割協議による不動産の取得は相続による取得に該当し、不動産取得税が非課税となる。」

との判断をし,不動産取得税の課税を否定しました。



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