2016年5月31日火曜日

遺留分減殺請求権の競合



登記研究平成28年5月号(819号)の実務の視点の,


130頁の23行目から28行目の下記記載には説明不足があるような気がします。


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「なお,上記の事例において,戊(遺言者)から丁(第三者)への包括遺贈が,甲(相続人)の遺留分を侵害しているのであれば,乙(相続人)及び丙(相続人)の遺留分をも侵害していると考えられるが,


上記のとおり,甲は遺留分減殺請求によって取り戻した当該土地の所有権を物権的に取得し,当該土地の所有権は,甲が確定的に取得しているのであるから,


乙及び丙が,甲に遅れて遺留分減殺請求権を行使しても,甲が取り戻した当該土地に対して,遺留分減殺請求をすることはできないと解される。」


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「甲が確定的に取得している」との部分ですが,


上記の事例からの引用が不明確なため,


甲(遺留分権利者)の丁(遺留分侵害者=包括受遺者)に対する,遺留分減殺請求訴訟の勝訴判決確定(甲が当該土地の所有権全部を取得した判決内容。)のみを指すのか,


当該勝訴判決に基づく登記を具備(完了)したことまでも指すのか,


理解しにくい内容となっています。


何度読み直しても,登記を具備したことまでを指しているものとは,解せませんでした。


登記手続に関する記載はありますが,登記の完了(登記の具備)の記載は読み取れませんでした。


遺留分権利者は,減殺請求後に目的物を買受け所有権移転登記を経た転得者に,その所有権取得をもって対抗しえない(最判昭35年7月19日民集14巻9号1779頁)。」


全部包括遺贈に対して,遺留分減殺請求権を行使した後は,遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される(最判平8年1月26日民集50巻1号132頁)。」


上記判例からすると,共同相続人である遺留分権利者が2名いた場合で,ある遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使し,その後に他の遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使したときは,


それぞれの関係は,包括承継人である相続人同士(当事者同士)の関係ではなく,互いに相争う民法177条の対抗関係にたち,


遺留分減殺請求権の行使の先後ではなく,その対抗要件たる登記の先後によって,決せられると解されます。


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札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
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