2009年7月1日水曜日

墓地使用契約の中途解約



墓地使用契約を中途解約した場合,墓地使用料は,返還されるか?

「墓地使用料を返還する必要はない。」,と判断された事例


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(1)判決内容について

京都地方裁判所 平成19年(レ)第36号 墓所使用料前納金返還請求控訴事件
平成19年6月29日判決

原告(訴えを起こした人):原告の亡父が,被告と墓地使用契約を締結していた。
被告(訴えられた人)   :墓地を経営している宗教法人

訴えの内容:
「原告の父が死亡した後,墓地使用契約を解約したので,被告は墓地使用料を全額返還しろ。」

裁判所の判断:
「被告は,墓地使用料を返還する必要はない。」


事案の内容:
 平成4年3月,原告の父が,被告(宗教法人)との間で,被告が経営する墓地の使用契約を締結し,墓地使用料として65万円を支払った。

 墓地使用規則(墓地使用契約)には,墓地の使用期間と墓地使用料の返還の規定は,記載されて「いなかった」。

 平成17年12月,原告の父が死亡した。
 原告の父は,墓地に墓石などを設置して「いなかった」。
 原告は,原告の父の墳墓を本件墓地以外の場所に設けることにした。

 (墓地使用契約締結から約14年経過した)
 平成18年2月,原告は被告に,墓地使用契約の解約を申し入れるとともに,墓地使用料の返還を求めたが,被告はこれを拒絶した。

 
 裁判所の判断理由:
 (前提となる事実や墓地使用規則によると)
 本件墓地使用契約は,墓地使用期間の規定がなく,使用者の死亡にかかわらず,祭祀承継者(お墓の管理をする相続人)への使用を許諾する,永続的・永代的な使用権(いわゆる永代使用権)を設定する内容である。
 
 墓地使用料は,使用開始時に一括支払いが,予定されていること(実際にも,一括支払い済み。),
墓地使用規則に墓地使用料の返還について規定がないことから,墓地使用料は,使用期間に対応した使用の対価とは「いえない」。
 つまり,墓地使用権の設定(契約締結により,墓地を「使用できるという地位」)に対する対価である。

 墓地使用契約締結後,墓石などを設置していない状態で,墓地使用契約を解約したとしても,それは,原告の一方的な墓地使用権の放棄(権利放棄)である。

 原告の解約により,本件墓地について,被告は他の人に墓地使用権を設定できるようになるが,不当な利得とはいえない。

 よって,被告は,原告に対し,墓地使用料を返還する義務を負わない。



 最高裁判所のホームページから原文を参照してください。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=04&hanreiNo=34968&hanreiKbn=03

裁判所の判断は,個別具体的な事件に対して行われるものですから,
 すべての事件について,裁判所が同様の判断をするとは限りません。



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(2)標準契約約款について

厚生省(当時)の生活衛生局長が,各都道府県知事,指定都市市長,中核都市市長に宛てた
 「墓地経営・管理の指針等について(平成12年12月6日生衛発第1764号)」
 というものがあります。
 
 この中に標準契約約款というものがあり,墓地使用料の返還規定は,次のようになっています。


 第8条(使用者による契約の解除)
   墓地使用者は,書面をもって,いつでも墓地使用契約を解除できる。

 2 解除した場合,使用者はすでに支払った使用料および管理料の返還を請求することができない。           

 ただし,墓所に墓石の設置等を行っておらず,かつ,焼骨を埋蔵していない場合において,使用者がすでに使用料を納付しているときは,契約締結後〇日以内に契約を解除する場合に限り,墓地経営者は,当該使用料の〇割に相当する額を返還するものとする。

 3 (略)



上記のとおり,厚生省が示した標準契約約款によると,
「墓石の設置をしていなくても,契約締結後〇日経過すると,経営者は使用料を返還しなくてもよい」,ということになっています。

 この裁判の事案につき,仮に,

 (消費者側(墓地使用者側)に有利な内容が多いとされる)
 厚生省の標準契約約款にあてはめてみても,契約締結から「約14年経過」していることから,
 やはり,墓地経営者は,使用料を返還する必要は「ない」ことになります。

*厚生省の標準契約約款とは,あくまで厚生省がお勧めする指針にすぎず,ある墓地使用契約の内容が標準契約約款に違反したとしても,ただちに契約内容が無効になるものではありません。


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(4)消費者契約法について

平成13年4月1日以降の消費者契約については,消費者契約法が適用されます。

この裁判の事案については,平成4年に締結していますので消費者契約法は適用されません。

なお,仮に消費者契約法が適用されたとしても,「墓地使用料」に関する条項は,いわゆる中心条項と考えられます。

よって,原則として消費者契約法9条及び10条は適用されないと解します。


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なお,①墓地使用契約が,公序良俗違反となるような例外的な場合には民法によって無効とされるので墓地使用料は返還されますし,

②墓地経営者が墓地使用契約の契約内容に違反したことを理由に契約を解除する場合は墓地使用料は返還されますし,

③墓地使用契約の締結時に違法な勧誘行為があった場合は,消費者契約法または特定商取引法に基づき契約を取り消すことにより墓地使用料は返還されますし,

④「クーリングオフ」よって,墓地使用契約を解除する場合は墓地使用料は返還されます。


←消費者契約法および特定商取引法の取消権は,追認をすることができる時から6ヵ月間行わないとき又は契約締結時から5年を経過したときは,時効によって消滅します。


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おそらく,墓地使用契約は民法上の典型契約ではなく,無名契約の一種にあたると思われます。

在学契約に解除に関する学納金返還請求訴訟の最高裁判決(最判平18年11月27日民集60巻9号3437頁,最判平18年11月27日民集60巻9号3597頁,同日のほか3件の判決)を参照する限り,

使用者(=消費者)が,使用者の都合(クーリングオフを除く)で,墓地使用契約を中途解約する場合,墓地使用料の返還請求が認められる可能性は低いと解します。


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