2009年7月21日火曜日

法律上の相続放棄

世間では,相続財産を一切もらわないという意味で,「相続放棄」という用語を使うことがあります。

法律上は,家庭裁判所で手続きをした場合のみ,相続放棄といいます。

したがって,ある相続人が,相続財産を独占する相続人に対して,

「私は相続財産は取得しません。」,と表明(書類に署名押印)しても,それは,法律上の相続放棄ではありません

法律上の相続放棄は,プラスの財産も「マイナスの財産も」含めた,すべての権利放棄,という効果が発生します。

これに対し,世間で言う相続放棄は,プラスの財産のみの権利放棄,という効果しか発生しません。
(本人は,プラスの財産を権利放棄するのだから,「マイナスの財産についても,支払い義務はない」。と思うことが多いようですが,間違いです。)

この違いが,目に見えて現れるのは,相続財産にマイナスの財産があった場合です。

*相続財産というのは,プラスの財産だけでなく,マイナスの財産も含むのです

相続財産を独占した相続人が,相続財産であるマイナスの財産(借金)を正常に返済していれば問題はありませんが,返済に行き詰まると,借金の貸付人(銀行など)は,相続財産を全く取得していない他の共同相続人に対して,借金の返済を請求してきます。

法律上,この貸付人の請求は,正当な権利行使として認められています。

つまり,共同相続人の間で,相続財産を独占した相続人が「プラスの財産を取得するが,責任をもってマイナスの財産も返済する」,という合意をしたとしても,法律上は借金の貸付人には通用しないということです。

悲惨な例は,相続財産を独占した相続人が,プラスの財産でマイナスの財産を返済せずに,プラスの財産を浪費するような場合です。

よって,相続財産を一切取得しない場合は,家庭裁判所で相続放棄の手続きをしましょう。


【注意】

相続登記(相続による不動産名義人の変更)に必要だからと言われて,
不動産を取得する相続人から
「特別受益証明書」,「相続分皆無証明書」,「相続分のないことの証明書」という書類が送られてくることがあります。
上記書類には,「わたしは,既に財産をもらっているから,相続分はありません。」みたいなことが記載してあります。しかし,上記書類に署名押印したとしても,法律上の相続放棄にはなりません